未破裂脳動脈瘤
脳動脈瘤とは?
脳動脈瘤は
動脈にできる膨らみ(コブ)のことです。
脳動脈瘤は脳の底の部分の大きな血管、
特に脳血管が分かれる分岐点にできるのが
ほとんどで、
破裂していない動脈瘤を
「未破裂脳動脈瘤」と言います。
脳動脈瘤ができる原因は
まだ分かっていませんが、
生まれつき動脈の壁に弱い部分のある人が、
長年の喫煙や高血圧などで、
この弱い血管壁がさらに脆くなり、
脳動脈瘤が発生すると考えられています。
最近ではMRI検査で、
簡単に脳血管の様子が
わかるようになりました。
頭痛、めまいなどでこれらの検査が
行われたり、予防医学の観点から
脳ドックを受けられる患者さんも増え、
未破裂脳動脈瘤が発見される数は
増加しています。
脳動脈瘤の壁は
正常な血管の壁に比べて
とても弱くもろいので、
突然、動脈瘤が破裂して
「くも膜下出血」という重症の脳出血を
引き起こすことがあります。
くも膜下出血を起こすと、
3人に1人は重度の脳障害を遺したり、
3人に1人は死に至る
非常に重篤な病気です。
高血圧や喫煙、大量の飲酒、
ストレスなどの生活習慣も
破裂を起こしやすい危険因子であると
考えられています。
未破裂脳動脈瘤は破れるのか?
未破裂脳動脈瘤が破裂する危険性は、
おおよそ年間約0.7〜1%程度と
考えられていますが、
出血を生じる危険性は、
動脈瘤の部位、大きさ、形などに
よっても異なります。
もともと動脈瘤のサイズが
5mm前後を超えているものや、
経過中に増大傾向にあるもの、
動脈瘤の形が不整(いびつ)なものは
破裂する危険性が高いと考えられます。
未破裂脳動脈瘤の治療方法は?
未破裂脳動脈瘤の治療方針として、
以下があります。
1様子観察
定期的に検査を受けて、
経過を見ていただきます。
2開頭術
頭を切って行うクリッピング術という
方法で、当院では無剃毛手術(※)のため、
10日前後の入院を予定しています。
※毛髪は一切切りません
3血管内治療
“頭を切らず”にカテーテルという
細い管を血管の中を通し、
細いコイルを動脈瘤に詰めて行う方法で、
5日前後の入院を予定しています。
どちらの方法が良いかは、
患者さんの年齢・合併する疾患や、
脳動脈瘤の大きさ・部位・
形等によって専門医が決めますが、
患者さんが希望する治療法も
あるかと思いますので、
遠慮なく当院担当医もしくは
専門医にご相談ください。
未破裂脳動脈瘤の
治療症例①
- 83才女性
- 頭痛の精査で判明した
右中大脳動脈瘤に対して、
脳動脈瘤クリッピング術を施行 - 術後特に問題なく経過し、
術後8日で独歩退院
術前
術後
術前
術後
術前
術後
未破裂脳動脈瘤の
治療症例②
- 47才女性
- 頭痛の精査で発見された
未破裂前交通動脈瘤に 対して、
脳動脈瘤クリッピング術を施行 - 術後特に問題無く経過し、
術後8日目に独歩退院
術前
術後
術前
術後
術前
術後
未破裂脳動脈瘤の治療割合(2022年)
当院における未破裂脳動脈瘤の治療割合は
以下の通りです。
当院の脳血管内治療
(動脈瘤コイル塞栓術)
脳血管内治療とは?
脳血管内治療とは、頭蓋内や頸部の病変を、
直接切開せずにカテーテルという細い管を
用いて治療する方法の総称です。
カテーテルは、大腿の付け根の血管や、
手首、肘の血管から挿入します。
そのカテーテルを通してプラチナ製の
柔らかく細いコイルを
脳動脈瘤の中に流し込んでいきます。
脳動脈瘤の中をコイルで満たしてしまい、
血液の流れ込む隙間を
なくすことで破裂を防ぐ方法です。
クリッピング術と違い、
頭の皮膚を切開する必要がありません。
そのため、身体への負担が少なく、
高齢の患者さんでも受けやすい治療法です。
脳血管内治療(動脈瘤コイル塞栓術)は、
すでに海外では2000年代から、
国内でも2010年代から増えており、
当院においても脳血管内治療の
占める割合は年々高くなっています。
これは治療を受けられる
患者さんのニーズが、やはり開頭手術より
カテーテル治療を望まれていることと、
カテーテル治療に用いられる
道具(デバイス)の進化により、
今まで開頭手術で対応していた
動脈瘤をカテーテル治療で
行えるようになってきていることが
理由だと思います。
当院の脳血管内治療の特徴について
当院の脳血管内治療の特徴・強みは
以下の点と考えています。
1.脳血管内治療専門医・指導医が
複数在籍し、責任を持って治療を実施
脳血管内治療は「頭を切らない」
低侵襲な治療として有用な治療法ですが、
合併症を出したときは
頭を開けていないので、
非常に重篤な症状を引き起こす可能性が
あります。
そのため、治療を行う医師は、
十分な知識と経験を持ち合わせている
必要があるため、
当院では術者は
脳血管内治療専門医もしくは
指導医に限定しています
(当院には経験豊富な
脳血管内治療専門医が3名、
指導医が1名在籍しております)。
また、治療方針に偏りが出ないように、
個々の症例に対して
必ず脳神経外科医師全体で
毎日ディスカッションを行っています。
常に最新の医学情報や技術を取り入れ、
安全性の高い治療に取り組んでいますので
ご安心ください。
2.大半の脳動脈瘤が
カテーテル治療で可能
前述の通り、具体的な方法は血管の中に
カテーテルを通して
動脈瘤内部に到達させ、
瘤内にプラチナ製のコイルを詰めて
内部に血流が入らないようにする方法です。
動脈瘤の形状に応じて、
バルーンカテーテルやステントを併用して、
より複雑な動脈瘤にも対応することが
可能になりました。
また使用する器具(デバイス)は
毎年新しい物が開発され、
治療成績が向上し、
安全性も高くなっているので、
従来治療不可能と考えられていた
巨大動脈瘤や脳深部に位置する
動脈瘤に対しても
カテーテル治療が可能
になっています。
今後もますます治療適応や対象となる疾患が
拡大を続けていくと考えられます。
3.大学病院レベルの技術を
すぐに提供することが可能
当院は脳神経外科医が6人在籍していますが、
全員脳神経外科専門医の資格を
有しています。
また、脳血管内治療専門医3名
(うち指導医が1名)、
脳卒中専門医3名(うち指導医が2名)、
脳卒中の外科認定医3名(うち指導医が2名)
と豊富な経験と知識をもった専門医師が
複数在籍しており、
民間病院では
類を見ないほどの充実した医療チームを
作っています。
また、当院は日本脳神経外科学会専門医
認定制度による指定訓練施設、
日本脳神経血管内治療学会
専門医指導医認定制度による研修施設、
日本脳卒中学会専門医認定制度による
研修教育病院、
さらには、日本脳卒中学会より
一次脳卒中センターコア施設
の認定を受けており、
大学病院レベルの
臨床・教育機関としても
機能しております。
脳動脈瘤と診断された患者さんの大半は、
診断されたその日から「手術されるまでに
破裂するんじゃないか?」と
非常に大きなストレスと不安を抱えます。
我々はそういった患者さんの
不安を少しでも取り除きたく、
できる限り患者さんのご希望通りの
治療のスケジューリングができるように、
休院日以外ならどの曜日でも
手術を受けられるように設定しております
(入院は365日いつでも可能としています)。
動脈瘤コイル塞栓術の治療の流れ
動脈瘤コイル塞栓術の
アニメーションになります。
ぜひご参照ください。
1頭を切らずに皮膚切開します
頭を切らずに、
腕や太ももの付け根の
血管からカテーテルを入れます。
約3〜4mmの皮膚切開のみで行います。
2動脈瘤にカテーテルを
挿入します
動脈瘤の中に
専用の細いカテーテルを入れます。
3動脈瘤の中にコイルを詰めます
動脈瘤の中にプラチナ製のコイルを
詰めていきます。
特殊な金属で作られていますので、
MRI検査も可能です。
4動脈瘤への血流を止めます
動脈瘤に血流が入らなくなったら
治療終了です。
大型・巨大脳動脈瘤に
対する血管内治療
フローダイバーター
ステント治療
脳動脈瘤コイル塞栓術の
デメリット
これまでは脳動脈瘤コイル塞栓術の
メリットを中心にお話してきましたが、
従来のコイル塞栓術の欠点もあります。
それは術後数ヶ月〜数年経過した際に
治療した脳動脈瘤の中に再び血液が入るようになる、
いわゆる再発という懸念です。
文献にもよりますが、
従来のコイル塞栓術後の再発・再治療率は
約10〜20%とされています。
その理由は様々ですが、
コイリング術では母血管から
動脈瘤への入口(ネック)を
完全に塞ぐことができないためと
考えられています。
フローダイバーターステント治療
こうした再発の可能性が
極めて少ないとされるのが
2015年に日本で認可された
フローダイバーターステント治療です。
フローダイバーターステントは
細かいメッシュ状の特殊素材で
できているステントで、
極めて画期的な治療機器で、
ひとたび脳動脈瘤が完全閉塞されると
再発する心配がほとんどありません。
フローダイバーターを
ネックを覆うように母血管に留置すると、
動脈瘤内の血液の流れが変わり、
血液が“よどむ”状態になります。
すると、血液がゆっくりと血栓化をして、
治療から6ヶ月〜2年程度で
完全に閉塞します。
脳動脈瘤は、何らかに理由により、
動脈壁が傷ついたり弱くなることによって
発生しますが、
フローダイバーターを
母血管に留置することで動脈壁を補強したり
修復することができますので、
脳動脈瘤が再発することが極めて少ない
とされています。
フローダイバーターステント治療の流れについて
フローダイバーターステント治療の
アニメーションになります。
ぜひご参照ください。
1正常血管に
専用のカテーテルを挿入
動脈瘤近くの正常血管に
専用のカテーテルを入れます。
2フローダイバーターステントを
展開します
丁寧にフローダイバーターステントを
展開します。
3動脈瘤への血流を止めます
特殊な素材によって
動脈瘤への血流を止めます。
フローダイバーター
ステント治療の
メリット&デメリット
フローダイバーターステント治療の
長所と欠点は以下の通りとなっています。
メリット(長所)
- 大型の脳動脈瘤の破裂を未然に防げる
- 治療後の再発率が非常に低い
- クリッピング術や
従来のコイル塞栓術と比較し、
動脈瘤により薄くなっている
血管壁付近での
手術操作が
少ないため、術中破裂の危険性が低い
デメリット(欠点)
- 脳動脈の血栓化が
起こらない可能性がある。
血栓化は半年~2年程度の期間で
ゆっくりと進みますが、
確率としては半年後で約75%、
1年後で約85%とされています。 - 治療対象とされる脳動脈瘤は
位置や大きさ、
形状等の規定があるため、
すべての脳動脈瘤に
行えるわけではありません。 - 手技や周術期管理が
複雑であることから、
日本で使用できる術者が
限定されていますが、
幸い当院では
フローダイバーターステントの
使用が許可されています。